自然独占とは?図や例題でわかる徹底解説【高校生向け経済学入門】
目次
自然独占とは?基本の定義
自然独占(natural monopoly)とは、市場において1つの企業が供給を独占した方が社会全体のコストが低くなる状況のことをいいます。つまり、「競争がない方が効率がよい」という特別なケースです。
これは、規模の経済(スケールメリット)が非常に大きい産業で発生します。たとえば、水道や電気などのインフラ事業が典型です。
なぜ自然独占が生まれるのか?
自然独占が発生する最大の要因は「平均費用(AC)が生産量の増加とともに低下し続ける」という特徴にあります。
たとえば、以下のような費用構造を考えましょう。
- 固定費が非常に大きい(設備投資など)
- 限界費用(追加1単位の生産コスト)は非常に小さい
このようなとき、ある企業が大きな規模で生産すれば、平均費用が低下し、他の企業が参入してもコスト的に太刀打ちできません。
数式で表すと、平均費用 \( AC(q) \) が次のように表されるとします:
\[ AC(q) = \frac{F}{q} + c \]ここで、\( F \) は固定費、\( c \) は限界費用、\( q \) は生産量です。\( q \) が増えるほど \( \frac{F}{q} \) が小さくなるため、平均費用は下がります。
自然独占のグラフでの理解
自然独占の特徴は、長期平均費用曲線(LAC)が右下がりである点にあります。下のような図を思い浮かべてください:
- 横軸:生産量 \( q \)
- 縦軸:費用
- 平均費用曲線:右下がり
このとき、複数の企業が市場に参入すると、1社あたりの生産量が減り、平均費用が上がってしまいます。結果として、1社が独占した方が低コストで生産できるのです。
具体的な例:水道事業・電力会社
代表的な自然独占の例は以下の通りです:
- 水道事業:水道管を地域全体に引くための固定費が非常に大きい。複数の会社が水道管を敷くのは非効率。
- 電力会社:送電線や発電所など、初期費用が大きい。電力の供給は規模の経済が効く。
- ガス事業:ガス管の敷設コストが高いため、1社で行う方が合理的。
こうした事業では、競争を促すよりも、政府が監視・規制することで、価格やサービスの質を保つことが多くなります。
例題で理解を深めよう
例題:
ある企業の費用関数が以下のように与えられています。
\[ C(q) = 1000 + 2q \]このとき、平均費用と限界費用を求め、それが自然独占となる条件を満たしているかを考えてみましょう。
解答:
- 平均費用:\( AC(q) = \frac{C(q)}{q} = \frac{1000}{q} + 2 \)
- 限界費用:\( MC(q) = \frac{dC}{dq} = 2 \)
この平均費用は \( q \) が大きくなるほど下がっていきます。つまり、大量生産によって効率がよくなる構造=自然独占の典型です。
自然独占に関する応用問題
応用問題:
ある地域における通信インフラ事業が自然独占であると考えられている。以下の問いに答えなさい。
- 自然独占の条件が満たされるのはどのような費用構造か?
- この市場に複数の企業が参入すると、消費者にとってのメリット・デメリットは何か?
- 政府はどのような規制を行うべきか?
解答例:
- 固定費が大きく、限界費用が小さい構造。例:\( C(q) = 5000 + 0.5q \)
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- メリット:選択肢が増え、価格競争が起きる可能性
- デメリット:コストが増加し、サービス品質が落ちる恐れ
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- 価格規制(上限価格の設定)
- 公共事業として運営
- 自然独占企業への監視強化(情報公開など)
まとめと学びのポイント
自然独占は、通常の「競争がよい」という考えとは異なる特別な市場構造です。独占=悪と単純に考えず、コスト構造や社会全体の効率性を理解することが大切です。
高校経済や公民の授業、または大学の経済学部を目指す場合にも、自然独占は重要なテーマとなるので、ぜひ本記事を活用して学習を深めてください。