高校生でもわかる!アローの不可能性定理を徹底解説
アローの不可能性定理とは何か?
アローの不可能性定理は、ケネス・アローという経済学者が1951年に発表した数学的な定理です。この定理は、「複数の人がそれぞれの好みを持っているとき、全員が納得するような公平な方法で社会全体の意見を決めることは不可能である」ということを示しています。
簡単に言うと、みんなの意見をまとめて「社会としての最良の選択」を決める方法は、「完璧に公平で欠点のないもの」は存在しないということです。
社会的選択と公平な投票の問題
社会的選択とは、複数の人がそれぞれ異なる「選択肢の順位(好み)」を持つときに、みんなの意見をまとめて1つの「社会の選択」を決めることを言います。例えば、クラスで遠足の行き先を決めるとき、みんなが好きな場所の順位をつけて、それをまとめて最終的な目的地を決めるイメージです。
しかし、意見をまとめる方法が公平であることが求められます。公平とは、
- みんなの意見をできるだけ反映する
- 誰かの意見が不当に優遇されない
- まとまりが破綻しない(矛盾しない)
アローの不可能性定理の条件
アローの不可能性定理は、社会的選択ルールが満たすべき「条件(公理)」をいくつか挙げています。 その主な条件は以下の通りです。
- 非独裁性: どんな一人の個人の好みも社会の選択を一方的に決めてはならない。
- パレート効率性: もし全員がAをBより好むなら、社会の選択もAをBより好まなければならない。
- 独立性(選択肢の独立性): 2つの選択肢の社会的な順位は、他の選択肢の存在や順位に左右されてはいけない。
- 全ての個人の好みが反映される: 投票の結果は、全員の順位付けによって決まる。
これらの条件をすべて満たす社会的選択ルールが存在するかが問題になります。
定理の内容と意味
アローの不可能性定理は、上記の「非独裁性」「パレート効率性」「独立性」という条件を同時にすべて満たす社会的選択ルールは、3つ以上の選択肢がある場合には存在しないと証明しました。
つまり、3つ以上の選択肢から公平に社会的決定を行おうとすると、
- どこかで誰かの意見が過剰に優遇される(独裁になる)
- みんなが同じ意見ならその結果が反映されない(パレート効率性を満たさない)
- 順位の決め方が複雑になり、直感に反する結果が出る(独立性が破られる)
この定理は、単純な「多数決」などの投票システムにも限界があることを示し、政治や経済の意思決定で「完璧な公平」は数学的に不可能であることを明確にした重要な発見です。
わかりやすい具体例
具体例を使って考えてみましょう。 3人の人が3つの選択肢(A, B, C)について順位をつけます。
| 人 | 1位 | 2位 | 3位 |
|---|---|---|---|
| 人1 | A | B | C |
| 人2 | B | C | A |
| 人3 | C | A | B |
このとき、多数決で2つの選択肢同士を比べてみます。
- A vs B → 人1と人3はAを上位にしているが、人2はBを上位にしている。多数決だとAは2票、Bは1票でAが勝つ。
- B vs C → 人1と人2はBを上位にしているが、人3はCを上位にしている。多数決でBが勝つ。
- C vs A → 人2と人3はCを上位にしているが、人1はAを上位にしている。多数決でCが勝つ。
ここで問題が起きます。 多数決の結果は、 \[ A \succ B, \quad B \succ C, \quad C \succ A \] という「循環」した順位になってしまい、社会的に「これが一番!」と決められません。これを選好の循環と言います。
この例はアローの不可能性定理の一端を表しています。完璧に公平な社会的選択ができないことのわかりやすい実例です。
この定理の社会的な影響
アローの不可能性定理は、政治学、経済学、社会学など幅広い分野で大きな影響を与えました。特に、
- 投票制度や選挙制度の設計に慎重さが求められること
- 理想的な民主主義の実現が難しい理由の数学的な説明
- 代替的な意思決定ルールの必要性(例:複数段階の投票やランク付け投票)
また、この定理は「完全な公平は理論上存在しない」という厳しい現実を示しており、現実の社会ではトレードオフ(何かを良くすれば何かが悪くなる)が常に存在することを理解する手助けとなります。
本記事は高校生にも理解できるよう、できるだけ分かりやすく丁寧に解説しています。数学的な背景や証明の詳細は専門書で学ぶことができますが、基本の考え方を理解することが第一歩です。