正則行列とは?定義・判定・逆行列との関係まで解説
目次
正則行列とは
正則行列(せいそくぎょうれつ、英: regular matrix または invertible matrix)とは、 逆行列が存在する正方行列のことを指します。すなわち、ある \( n \times n \) 行列 \( A \) に対して、 次の関係を満たす行列 \( A^{-1} \) が存在するとき、\( A \) は正則行列です:
\[ A A^{-1} = A^{-1} A = I_n \]
ここで、\( I_n \) は \( n \times n \) の単位行列です。
正則行列と逆行列の関係
正則行列の定義から分かるように、逆行列が存在するかどうかが正則性を決定づけます。 逆行列とは、行列の積によって単位行列を作れるような行列です。 例えば、次の行列 \( A \) とその逆行列 \( A^{-1} \) を見てみましょう:
\[ A = \begin{bmatrix} 1 & 2 \\ 3 & 4 \end{bmatrix}, \quad A^{-1} = \frac{1}{(1)(4)-(2)(3)} \begin{bmatrix} 4 & -2 \\ -3 & 1 \end{bmatrix} \]
このように、行列式(のちに説明)によって逆行列が定まります。
行列式による判定法
正則行列であるかどうかは、行列式(determinant)を使って簡単に判定できます。 \( n \times n \) の行列 \( A \) に対して、次の条件が成り立てば \( A \) は正則です:
\[ \det(A) \neq 0 \]
逆に、\( \det(A) = 0 \) であれば、\( A \) は正則でなく、逆行列も存在しません。
ランクによる判定法
行列のランク(rank)を使っても正則性を判定できます。正方行列 \( A \) が 最大ランク(= サイズ \( n \)) を持つとき、すなわち:
\[ \mathrm{rank}(A) = n \]
このとき \( A \) は正則行列です。ランクは行の一次独立性を表しており、 行の間に線形従属関係がないことを意味します。
正則行列の具体例
いくつかの具体例を通して正則行列の理解を深めましょう。
例1:2次の正則行列
\[ A = \begin{bmatrix} 2 & 3 \\ 1 & 4 \end{bmatrix} \] この行列の行列式は、 \[ \det(A) = (2)(4) – (3)(1) = 8 – 3 = 5 \neq 0 \] よって正則行列です。
例2:3次の正則行列
\[ B = \begin{bmatrix} 1 & 0 & 2 \\ 0 & 1 & 0 \\ 3 & 0 & 4 \end{bmatrix} \] この行列も、行列式を計算すると \( \det(B) = 1 \neq 0 \) となるため正則です。
例3:非正則行列
\[ C = \begin{bmatrix} 2 & 4 \\ 1 & 2 \end{bmatrix} \] この行列は 2 行目が 1 行目の 1/2 倍であるため、行列式は \[ \det(C) = 2 \cdot 2 – 4 \cdot 1 = 4 – 4 = 0 \] よって正則ではありません。
非正則行列(特異行列)との違い
正則行列でない行列は「非正則行列」または「特異行列(singular matrix)」と呼ばれます。 特異行列は逆行列を持ちません。これは、
- 行列式が 0
- 行が線形従属
- ランクが最大でない
正則行列の応用
正則行列は多くの数学的・工学的応用があります。たとえば:
- 連立一次方程式の解法(クラメルの公式やガウスの消去法)
- 線形変換の可逆性の判定
- 暗号理論における変換行列の設計
- 数値解析での安定性の評価