部分群の定義と判定の完全ガイド
目次
部分群の定義とは?
群 \( G \) に対して、その部分集合 \( H \subseteq G \) が再び群の構造を持つとき、\( H \) を \( G \) の部分群(subgroup)と呼びます。
つまり、\( H \) 自体も群の公理を満たしていなければなりません。
群の公理は以下の4つです:
- 閉包性:任意の \( a, b \in H \) に対して \( ab \in H \)
- 結合法則:任意の \( a, b, c \in H \) に対して \( (ab)c = a(bc) \)
- 単位元の存在:\( H \) に \( e \in G \) が存在し、すべての \( a \in H \) に対して \( ea = ae = a \)
- 逆元の存在:すべての \( a \in H \) に対して逆元 \( a^{-1} \in H \) が存在
ただし、\( G \) が群であると仮定すれば、結合法則は \( G \) において既に成り立っているため、部分集合 \( H \) でも自動的に成り立ちます。したがって、部分群であるかを確認するには、他の条件のみをチェックすればよい場合が多いです。
部分群の具体例
いくつかの典型的な部分群の例を見てみましょう。
1. 整数全体の加法群と偶数の集合
群 \( (\mathbb{Z}, +) \) において、偶数全体の集合 \( 2\mathbb{Z} = \{ 2k \mid k \in \mathbb{Z} \} \) は部分群です。
- 加法に関して閉じている(偶数 + 偶数 = 偶数)
- 0 は偶数なので単位元を含む
- 偶数の逆元(符号を変えたもの)も偶数
2. \( \mathbb{R}^\times \) における正の実数
乗法群 \( \mathbb{R}^\times = \mathbb{R} \setminus \{0\} \) において、正の実数全体の集合 \( \mathbb{R}_{>0} \) は部分群です。
- 正の数同士の積は正
- 単位元 1 は正の数
- 正の数の逆数も正
3. 対称群 \( S_3 \) の部分群
対称群 \( S_3 \) は 3 つの元の置換全体の集合です。
恒等置換 \( e \) と、2つの元を入れ替える置換(例えば \( (12) \))の集合 \( \{ e, (12) \} \) は部分群です。
部分群であることの判定方法
実用的な判定方法として、以下の部分群判定法がよく用いられます。
判定法1:三つの条件を確認する方法
集合 \( H \subseteq G \) に対して以下を確認します:
- \( H \) が空でない(特に単位元を含む)
- \( a, b \in H \) ならば \( ab \in H \)(閉包性)
- \( a \in H \) ならば \( a^{-1} \in H \)(逆元の存在)
判定法2:1つの条件だけで済む方法
群 \( G \) の部分集合 \( H \subseteq G \) に対して次が成り立てば、\( H \) は部分群になります:
「\( a, b \in H \) ならば \( ab^{-1} \in H \)」
この判定法では閉包性と逆元の存在が同時に確認できます。
判定方法の応用例
例1:\( \mathbb{Z} \) における奇数の集合
奇数全体の集合 \( \{ 2k+1 \mid k \in \mathbb{Z} \} \) は部分群ではありません。
- 奇数 + 奇数 = 偶数 ⇒ 閉包性が成り立たない
例2:\( \mathbb{R}^\times \) における負の実数全体
負の数全体 \( \mathbb{R}_{<0} \) は単位元 1 を含まないため部分群ではありません。
例3:\( \mathbb{Z}_6 \) における \( \{0, 3\} \)
群 \( (\mathbb{Z}_6, +) \) において、集合 \( \{0, 3\} \) は部分群です:
- 0 + 0 = 0, 0 + 3 = 3, 3 + 3 = 0(mod 6) ⇒ 閉包性OK
- 0 の逆元は 0、3 の逆元も 3(3 + 3 = 0 mod 6)
まとめ
- 部分群は、群の構造を保った部分集合である
- 結合法則は親の群で自動的に成り立つため、主に閉包性・単位元の存在・逆元の存在を確認すればよい
- 実践的な判定法として「\( ab^{-1} \in H \)」の形が有効
- 具体例を通して、自分で判定できる力を養おう