【完全解説】部分集合から生成される群とは?定義・例・性質を一挙解説
目次
生成部分群の定義
群 \( G \) の部分集合 \( A \subseteq G \) に対して、「\( A \) によって生成される部分群(生成部分群)」とは、\( A \) を含む最小の部分群を指します。これは、次のように定義されます:
\[ \langle A \rangle = \bigcap_{\substack{H \leq G \\ A \subseteq H}} H \]
ここで、\( H \leq G \) は \( H \) が \( G \) の部分群であることを表します。つまり、\( A \) を含むような全ての部分群の共通部分が \( \langle A \rangle \) になります。
この定義によって、\( \langle A \rangle \) は明確に定まり、しかもそれは「\( A \) の元とその逆元を有限個ずつ積をとる操作」によって得られる元すべてからなる集合です。
記法と読み方
\( A \subseteq G \) に対して、「\( A \) によって生成される部分群」は
\[ \langle A \rangle \]
と書きます。特に、\( A \) が1元集合 \( \{a\} \) のとき、これは
\[ \langle a \rangle \]
と表され、「\( a \) によって生成される部分群」と読みます。このような部分群を 巡回部分群 と呼びます。
具体例と計算例
例1:整数全体の加法群
群 \( (\mathbb{Z}, +) \) において、元 \( 3 \) によって生成される部分群は
\[ \langle 3 \rangle = \{ \dots, -6, -3, 0, 3, 6, \dots \} = 3\mathbb{Z} \]
これは「3の倍数全体の集合」となり、\( \mathbb{Z} \) の部分群です。
例2:対称群 \( S_3 \)
対称群 \( S_3 \) の元 \( \sigma = (123) \) に対して、
\[ \langle \sigma \rangle = \{ \mathrm{id}, (123), (132) \} \]
この部分群は巡回群 \( C_3 \) に同型です。
例3:複数元による生成
群 \( \mathbb{Z} \) において、\( A = \{4, 6\} \) のとき、
\[ \langle 4, 6 \rangle = \{ a \cdot 4 + b \cdot 6 \mid a, b \in \mathbb{Z} \} = \langle 2 \rangle = 2\mathbb{Z} \]
これは、ユークリッドの互除法に基づき、\( \gcd(4,6) = 2 \) による結果です。
生成部分群の基本性質
- \( \langle A \rangle \) は確かに \( G \) の部分群である。
- 任意の \( A \subseteq G \) に対して \( A \subseteq \langle A \rangle \) が成り立つ。
- 任意の部分群 \( H \) に対して、もし \( A \subseteq H \) ならば \( \langle A \rangle \subseteq H \) となる。
- \( A = \{a_1, a_2, \dots, a_n\} \) の場合、すべての有限長の積(および逆元)によって生成される: \[ \langle A \rangle = \{ a_{i_1}^{\varepsilon_1} a_{i_2}^{\varepsilon_2} \cdots a_{i_k}^{\varepsilon_k} \mid k \in \mathbb{N}, a_{i_j} \in A, \varepsilon_j \in \{1, -1\} \} \]
有限生成群
群 \( G \) が有限個の元の集合によって生成されるとき、\( G \) は 有限生成群(finitely generated group) と呼ばれます。つまり、ある有限集合 \( A \subseteq G \) が存在して
\[ G = \langle A \rangle \]
となるものです。
例えば、\( \mathbb{Z} \) や有限群、また自由群などが有限生成群の例です。一方、無限生成群(例えば、各素数 \( p \) に対して \( \mathbb{Z}_p \) の直和)は有限生成ではありません。
応用と関連する話題
1. 群の構造解析
生成系を調べることで、群の全体像や性質(可換性、有限性、単純性など)を把握する助けになります。
2. 群の表示(プレゼンテーション)
群は「生成元と関係式」で与えられることがあり、これを群の表示(presentation)と言います。例えば:
\[ \langle a, b \mid a^2 = b^3 = (ab)^5 = e \rangle \]
は2つの元と3つの関係式によって定義される群を表します。
3. 幾何群論・位相群論への応用
位相空間の基本群や、幾何学的対象の対称性を記述する際に、生成部分群の考え方は不可欠です。特に、基本群の生成元は空間上のループの同値類に対応します。