乗法群(単元群)とは?定義・性質・具体例まで徹底解説!

乗法群(単元群)とは?定義・性質・具体例まで徹底解説!

このページでは、「乗法群(単元群)」について、数学の初学者にもわかりやすく、かつ応用を意識した内容まで徹底的に解説します。

目次

乗法群(単元群)とは?

乗法群とは、ある集合の元のうち、逆元を持つ元(可逆元)たちが構成する群のことです。特に、体や環などの代数構造において、乗法に関して可逆な元全体の集合を単元群(unit group)とも呼びます。

より形式的には、環 \( R \) における単元群 \( R^\times \) は次のように定義されます:

\[ R^\times = \{ a \in R \mid \exists b \in R \text{ such that } ab = ba = 1 \} \]

ここで、\( 1 \) は乗法単位元(単位元)であり、\( a \) に対して \( b \) が逆元であることを意味します。

なぜ重要なのか?

単元群は、代数学や数論において中心的な役割を果たします。特に次のような理由があります:

  • 整数の合同式の可逆性(例:\( \mathbb{Z}/n\mathbb{Z} \) における逆元の存在)
  • 体の構造理解(体のすべての非ゼロ元は可逆)
  • 暗号理論(RSA暗号では逆元の存在が前提)
  • 代数的構造の研究(イデアル、ノルム、整域などとの関係)

具体例で理解しよう

例1:実数体 \( \mathbb{R} \)

実数全体 \( \mathbb{R} \) において、乗法に関して逆元を持つ元は \( 0 \) を除くすべての実数です。つまり、

\[ \mathbb{R}^\times = \mathbb{R} \setminus \{0\} \]

例2:整数環 \( \mathbb{Z} \)

整数において、乗法に関する逆元を持つ元は、\( \pm1 \) だけです。したがって、

\[ \mathbb{Z}^\times = \{-1, 1\} \]

例3:剰余環 \( \mathbb{Z}/n\mathbb{Z} \)

\( \mathbb{Z}/n\mathbb{Z} \) においては、元 \( \bar{a} \) が逆元を持つための条件は、\( \gcd(a, n) = 1 \) です。たとえば、\( \mathbb{Z}/10\mathbb{Z} \) における単元群は:

\[ (\mathbb{Z}/10\mathbb{Z})^\times = \{\bar{1}, \bar{3}, \bar{7}, \bar{9}\} \]

例4:行列環 \( M_n(\mathbb{R}) \)

実数係数の \( n \times n \) 行列全体の集合 \( M_n(\mathbb{R}) \) においては、正則行列(行列式が 0 でない行列)が単元です。すなわち、可逆な行列全体が乗法群を構成します。

例5:体 \( \mathbb{F}_p \)(有限体)

素数 \( p \) に対して、有限体 \( \mathbb{F}_p = \mathbb{Z}/p\mathbb{Z} \) の単元群は、0 を除いたすべての元です。

\[ \mathbb{F}_p^\times = \mathbb{F}_p \setminus \{0\} \]

乗法群の性質

  • 群の公理: 単元群は乗法について結合法則、単位元、逆元を持ち、演算が閉じているため、群を成します。
  • 有限剰余環の場合: \( (\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})^\times \) の元の個数は、オイラー関数 \( \varphi(n) \) によって与えられます。
  • 体の単元群: 非ゼロ元全体が群を成し、これはアーベル群です。
  • 行列環の場合: 一般線形群 \( GL_n(F) \) は体 \( F \) 上の可逆 \( n \times n \) 行列全体で構成される群です。

他の代数構造との関係

  • 環: 単元群は、環の構造の中で「可逆な部分」を抽出したもの。
  • 体: 単元群は \( F^\times \) と書き、体のすべての非ゼロ元。
  • 整域: 単元の定義は変わらず、単元群は群にならないことも(例:非可換整域など)。
  • ユークリッド整域: 単元群は数論的研究でも重要。

より高度な話題

位数と構造定理

有限アーベル群の構造定理を用いて、例えば \( (\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})^\times \) の構造を巡回群の直積として表すことができます。

代数的整数論との関係

整数環の単元群は、ディリクレの単元定理などで詳しく研究され、代数体における単元群の構造が深い意味を持ちます。

p進数や局所体における単元群

\( \mathbb{Q}_p \) や局所環の単元群はトポロジー的にも重要で、整数環の単元群はコンパクトなトポロジー群をなすことがあります。

まとめ

  • 乗法群(単元群)は「乗法に関して逆元を持つ元」全体の集合。
  • 様々な代数構造(環・体・行列環など)に現れ、構造の理解や応用に不可欠。
  • 例を通じて具体的な理解を深めることができる。
  • 応用的には数論・代数幾何・暗号理論などに関連。

このページを通じて、乗法群(単元群)の基礎から応用までを一通り理解することができたはずです。今後は、より高度な代数学や数論の分野でも役立つ知識となるでしょう。

コメントは受け付けていません。