奨学金の返済免除条件を出産にすることの是非

奨学金の返済免除条件を出産にすることの是非

先日自民党の「教育・人材力強化調査会」は、学生時代に奨学金の貸与を受けた人が子どもをもうけた場合、返済額を減免する制度を提言しましたが、世間の評判はあまりよくないようでした。「感覚がずれている」「制度設計としての哲学や美学がない。あってはならない考え方だ」「産む、産まないの選択も自由。産みたい方の障害をどう取り除いていくか、子どもに焦点を当てた政策をやらないといけない」などというコメントがなされたようです。

美学があるかはともかくとして、この奨学金の制度は効果があるのでしょうか。出産と奨学金の返済にどのような関係があるか考えてみましょう。大学などへの進学を損得勘定から考察するとき、進学を検討する個人は進学によって得られる将来の長期的な報酬や学費と、進学をせず就職した場合に得られる長期的な報酬を天秤にかけ、より儲かる意思決定をすると考えます。すなわち、すぐ働くことで得られる報酬よりも、進学によって得られる給料が費用を差し引いても大きいとき、進学を選択すると考えるわけです。

しかし、学費はすぐに支払わなくてはならないので、将来的に取り戻せるとわかっていても進学をあきらめざるを得ない人も沢山居るわけです。このような人たちは、奨学金制度を用いることによって、長期的に得になる選択を行うことが出来るようになるわけです。

では、ここに出産が絡むと状況がどのように変わるのでしょうか。賃金統計を確認すると、日本では女性の年齢別平均年収は出産年代で下がることが確認できます。残念ながら、「現在の日本」では出産は女性の賃金を減らしてしまっているのです。すなわち、出産により、女性は男性と比較して進学により追加的に得られる賃金が少ないという結果が発生してしまっています。すると、社会が女性を損得勘定により、進学をあきらめざるを得ない状況に追い込んでいるとも解釈できます。

これを不公平だと考えるのであれば、自民党の「教育・人材力強化調査会」は、制度でその不利益を解消できないかと考えたのかもしれません。出産により、収入が減ってしまう分を補償することによって、進学が損になるような社会を変えようと試みているのではないでしょうか。もちろん、望んだからと言って誰でも子どもを授かれるわけではなく、不確実性が伴います。だからこそ、幸運にも子供を授かれたことを、損得勘定での不運にしなくても良いように、出産した場合には返済を減免しているのだと考えられます。

もちろん、同様の目標を達成するために、「出産条件に奨学金の返済減免」以外の納得感のある方法もあるかもしれません。また、損得勘定で出産を決めること自体が良くないという考え方も正しいと思います。しかし、「出産条件に奨学金の返済減免」にも、見方によっては意味がないわけではないことに注意するべきでしょう。

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