予備校に行くと何故成績が上がるのか
教科書を読むことが出来る生徒ならば、学校の試験や入学試験などの勉強は、多くの場合教科書があれば自力で行うことができます。ですから予備校のようなところに行かなくても、本来は試験の点数は上がっていくはずで、試験の点数を上げること自体が目的ならば、予備校に行く必要はありません。しかし、実際には多くの生徒や受験生が予備校に通っており、予備校の講義のおかげで成績が上がったという声をしばしば耳にします。このような現象はなぜ起こるのでしょうか。
いくつかの理由が考えられますが、今回は受験のための時間の有限性と、定員の有限性、範囲のある試験の特殊性、そして予備校に行かない選択が何を意味するのかについて議論しようと思います。
そのためにも、予備校が何を提供しているのかについて整理しておく必要があります。予備校が提供するサービスは受験のために有益と信じられている情報です。それは例えば沢山の問題に適用可能な解法であったり、語呂合わせ、他の受験生がどんな問題が出来てどんな問題が出来ないのかの統計、過去に自分と同じくらいの成績だった受験生がどのくらいの確率で東京大学に合格したのかなど多岐にわたります。これらの情報を、予備校は受験生にストレスがかからない形で教えてくれます。
特に、予備校は各大学が過去にどんな問題を出したのかについてデータを蓄積しており、どの大学でどのような問題が出やすいのか、どの大学を併願すれば第一志望校と似たような問題が出題され受験生の負担が少なくなるのかに精通しています。場合によっては、大学の入試問題が試験範囲外である可能性を指摘し、入試問題がダイナミックに変化する可能性を排除しています。その結果、目的の大学に合格するために効率の良い演習問題のセットを提供することができます。
結果として、予備校に通う受験生は知らず知らずのうちに、志望校受験に不要な知識は排除した点数の稼げる情報を受け取ることができ、短時間のうちに合格確率が上がっていくのです。これだけ聞くと何も問題ないように感じますが、弊害もあります。2つほど紹介しましょう。
1つ目は、志望校受験に不要な知識は排除した点数の稼げる情報のみを学習することが、多くの場合大学では役に立たないことです。大学に限ったことではありませんが、各教科の教科書は、その教科の全体像が把握できるよう配慮して書かれています。なぜなら、教科書は読者がその教科の全体像を把握することを願って書かれているからです。ですから、教科書が何回も読まれ教科書を読まずとも教科書のような考え方が出来る個人を育てることが期待されているわけですが、その結果として、入試の問題にしにくい部分も沢山あります。特に選択問題を作成しようとすると、教科書内で問題に使用できる部分はかなり限られます。更に、その中で作問しやすい問題が頻出問題となり、その問題の解答法を覚えることが効率の良い勉強法になります。しかし、この勉強の仕方では教科書の本来の使いかたを高校在学中に身につけることが出来ません。結果として、大学1年で大きく躓く学生が毎年量産されています。
2つ目は、予備校が自分たちが何をしているのかを受験生に伝えないことです。実際には、出題傾向を分析し、それに合わせた問題の訓練をさせているから、成績が上がっているように見えているだけなのに、予備校がこの事実を受験生に伝えることは稀です。結果として、特定の科目の得点が上がった受験生は、その科目に自分が向いていると勘違いし以下略です。
しかし、受験生は予備校に行かないと不利益を被ることになります。議論のとおり、予備校は効率の良い得点向上のための情報を与えます。これは、合格定員が限られており、受験までの時間が限られている受験生にとっては重大なことです。他の受験生の得点が上がれば、その分自分が合格できる可能性は減るわけですから、予備校に行かないことは受験する大学のレベルの低下を意味し、それは将来の収入の大変な減少を意味します。予備校が与えている情報の本質に気付いていたとしても、予備校に行かないという選択肢をとることは難しいのです。上述のような予備校のメリットを享受したければ規模の大きい予備校を利用することをお勧めします。
勿論、正攻法の勉強の方が結果の出る試験問題を出す大学も世の中には存在しますが、それらはトップレベル大学などと呼ばれる大学で、ほとんどの場合、効率の良い勉強の方が良い得点を採れてしまいます。
予備校を利用する際には、ぜひ以上の点に留意していただき、情報を効率よく手に入れながらも実直に教科書を正確に読む練習をすることを忘れないよう、勉強していただけると幸いです。